\天然杉/
杉は学名で「クリプトメリアヤポニカ」といって日本固有の種類です。真っ直ぐに伸びる性質があるため古くから植林され利用されてきました。
あちこちに植林された杉の林が多い中、新潟を含む日本海側には、自然に自生する杉が多くあります。そのなかで新潟の阿賀町に自生する天然の杉をムラスギと呼んでいます。この地域のムラスギを紹介します!
\中ノ沢の天然杉/
阿賀の森には所々にスギの大木がある。周りの木よりもひときわ大きい木なのだが葉っぱが生い茂る季節には目立たないので出会いにくい。
大木とはいっても木の高さが抜きんでているのではない。その太さに特徴があるのだ。
冬、広葉樹が葉っぱを落とした後、遠くからその姿が際立って見えてくる。
でも、近寄らないとそのすがたかたちはわからない。
これが阿賀特有のムラスギと呼ばれる天然のスギなのだ。
天然とはいってもその多くは人の手によってつくられた形であることは間違いないだろう。
人がスギの幹を丁寧に伐る。伐られては脇芽をのばし、また伐られては脇芽をのばしていった結果、株元がどんどん太っていったのである。太い割には木の高さが低いのはそのためでもある。
もちろん人はむやみに伐ったわけではない。日々の生活のために伐ったのである。1本のスギの木を大切に使ってきた証拠でもある。でも、それは貧しさが故の伐り方でもあったのだ。
中ノ沢には1本のとてもスマートなスギの木がある。樹冠の形はきれいな円錐形、とても
美人系の木だ。私はこの木をとんがりスギと呼んでいる。
しかし、これも天然杉なのだ。このあたりの普通のスギとはすがたかたちは似ても似つかぬほど違う。それほどきれいでスマートなのだ。
このスギの周りには、植栽されたアカエゾマツやトドマツなど、とっても円錐形になる木が彼よりもずっと低い姿で林立している。このあたりの森の中では不思議な光景だ。
地面の下には木の根っこが張り巡らされ、その各々が菌根ネットワークで結ばれているといわれる。このネットワークが関係しているのかと勘ぐってしまう。
天然杉の大木もとんがりスギも他の木たちとの競争で勝ったり、また風雪を耐え忍ぶ力や貧困な環境で生き抜く力に秀でている木だとは思わない。
周りの木やその他の生き物に支えられているからこそ大きくなっていっただけなような気がする。あるいは逆に彼の巨体を利用して上手に養分を得ているのかもしれない。
クロモジという木がある。枝を折るといい香りがする木だ。この木は数本以上の株立ちになりやすい。同じ株の中で、太くなった幹は枯れてしまう。中ノ沢では直径が6~7センチ以上くらいになると枯れるようだ。
しかし、太い幹が枯れても、細い幹と株は生き残る。株はそれを繰り返してずっと生き続ける。そうやって生き延びる術を見つけた木なのだ。スギとはまったく違った生き方だ。
阿賀の森にはまだまだわからない謎がたくさんある。おもしろい。